直流機の励磁方式(直巻・分巻・複巻)

 

 この項では,いままで当たり前に存在するものだと思っていた磁束を起こすために,実はいろいろな手法が考えられるということを紹介する.(その方式の違いでトルク特性曲線と速度特性曲線などが大きく異なるということは前回の記事で説明した.)

 まず磁極の磁束は,次の図1に示すように,永久磁石か電磁石かのいずれかの方法により発生させられる.

図1.永久磁石形直流機(左)と巻線形直流機(右)

 

 永久磁石形(左)の場合は,1極当たりの磁束\(\Phi\)はほぼ一定(回転子コイルの方に流れる電流の大きさに殆ど影響されない)と考えることができるが,巻線形(右)の場合は界磁コイルに流れる電流\(I_f\)によって磁束\(\Phi\)が大きく変わることは明らかだろう.その意味で,界磁コイルの電流供給方法は,直流機全体の特性を決定づける非常に重要な要素であると予想できる.

 これから界磁コイルが電機子コイル(直流機で言えば整流子を介して接続されている回転子コイル)に対してどのように接続されるのか(並列なのか直列なのか等)によって,直流機のタイプを直巻・分巻・和動複巻・差動複巻・他励式の順に分類していこう.

 

 直巻・分巻

 

 まず,直巻・分巻の接続を図2に示す.

図2.直巻直流電動機(左)と分巻直流電動機(右)

 

 この図2を見ると,界磁コイルが電機子コイル(図中のMで記された部分)に対して直列に結ばれる場合(左側)を直巻と呼び,一方界磁コイルと電機子コイルが並列に結ばれる場合(右側)を分巻と呼ぶことがわかる.

 分巻(右側)は界磁コイルに端子電圧\(V\)がそのままかかるので,電機子電流\(I_a\)の大きさに関わらず界磁電流\(I_f\)は一定となり,確かに1極当たりの磁束\(\Phi\)はほぼ一定となる(電機子反作用を無視した場合).

 一方で直巻(左側)は界磁コイルと電機子コイルが直列に結ばれているので,電機子電流\(I_a\)と界磁電流\(I_f\)は等しくなるだろう.したがって直巻の場合,電機子電流\(I_a\)が増えれば1極当たりの磁束\(\Phi\)は増加する.

 界磁コイルの接続方法としては,上記の分巻・直巻が代表的であるが,この中間的な方法として和動複巻・差動複巻という接続方法があるので次に紹介しよう.

 

 和動複巻・差動複巻

 

和動複巻・差動複巻の接続を図3に示す.

図3.和動複巻直流電動機(左)と差動複巻直流電動機(右)

 

 これらは複巻と呼ばれる界磁コイルの接続方法で,電機子コイルに対して並列な界磁コイル1と,電機子コイルに対して直列な界磁コイル2の2つのコイルのハイブリッドとなっており,この2つの界磁コイルの極性が互いに磁気を強めあう極性になっている場合は和動複巻,反対に2つの界磁コイルの極性が逆になっており互いが磁気を相殺し合うような極性になっている場合は差動複巻,と呼ばれる.

 差動複巻は回転速度が不安定になりやすく,始動トルクも弱いためほとんど使われることがない.一方で和動複巻は,軽負荷の場合(電機子電流\(I_a\)が小さい場合)は分巻に近く,逆に重負荷の場合は直巻に近くなるので,分巻と直巻のいいとこどりをしたような特性になっており,複巻と言えば実質こちらを指すことが多い.いままでは,電機子コイルと同じ電源を共有しているような接続方法であったが,最後に界磁コイルと電機子コイルが別々の電源を持つようなケースを紹介しておこう.

 

 他励磁式

 

 次の図4に示すのが,他励磁式である.

図4.他励磁式直流電動機

 

 図4を見るとわかるが,他励磁式の場合は界磁コイルが電機子コイルとは別個の電源につながれている.このタイプは分巻式と同様,電機子電流\(I_a\)によらず界磁電流\(I_f\)が決まるので,1極当たりの磁束\(\Phi\)が負荷によらない分巻特性を持つ.また,この他励磁式の利点としては,界磁電流を専用の電源によって独立にコントロールできるので,状況に応じて最適なトルク・回転速度を発揮できる.また発電動作時にも起電力を界磁電流の調整により可変とできる点も魅力である.ただし,励磁用に独立の電源系が必要になるなど,システムが大がかりになるので大重量・高コストは避けられない.

 

 直流機の励磁方式についての概要説明は以上である.

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,【徹底解説 電動機・発電機の理論】のP.103~P.109にて展開されています.
是非ご参照を!!

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