静止形調相設備の概要

 

 代表的な調相設備としては,電力用コンデンサ分路リアクトル同期調相機静止形調相機の4つが挙げられる.今回説明していくのは4番目,静止形調相機である.ここで”静止形”という言葉が何を示しているかと言うと,「サイリスタ等の半導体スイッチによるスイッチングにより制御されている」という意味が込められている.「ガチャン」と動作させる機械的なスイッチングではなく,静止している半導体素子によるスイッチングなので,”静止形”と呼ばれているのである.

 ここで概要を紹介する静止形調相設備は,サイリスタ開閉コンデンサ方式(TSC)サイリスタ制御リアクトル方式(TCR),一般的なSVCの方式,STATCOMサイリスタ制御直列コンデンサ(TCSC)である.一つずつの詳細説明は後続の記事で行うとして,ここではそれぞれを簡単に解説していくことにしよう.

 

サイリスタ開閉コンデンサ方式(TSC)

 

 サイリスタ開閉コンデンサ方式(Thyristor Switched Capacitors)とは,名前の通りサイリスタをスイッチとして,系統に接続するコンデンサの数を切り替える可変キャパシタのことである.

 

図1.サイリスタ開閉コンデンサ方式(TSC)

 

 

 図1のように,サイリスタによるスイッチ付きのコンデンサがアレーになっている.例えば\(C\),\(2C\),\(4C\)の容量を持つ3つのコンデンサを用意した場合,3つのスイッチの組み合わせによって\(0\)から\(7C\)まで\(C\)刻みで8段階の容量が実現できる.このように段階的ではありながら,可変容量を実現しており,負荷が誘導性のときにその負荷による無効電力の消費を打ち消すように働き,負荷の力率を改善し,負荷にかかる電圧を回復させるのである.

 

サイリスタ制御リアクトル方式(TCR)

 

 サイリスタ制御リアクトル方式(Thyristor Controlled Reactor)とは,サイリスタをスイッチングさせて,導通している時間幅を動的に調整することで等価的なリアクタンスを可変にし,系統から消費する無効電力の大きさをコントロールする無効電力調整装置のことである.TCRの概念を表した回路図を次の図2に示す.

 

図2.サイリスタ制御リアクトル方式(TCR)

 

 

 この図2では,TCRは連続的に値をコントロールできる可変インダクタであることを示している.負荷が500kV級の超高圧・長距離送電であったり,都市部のケーブル送電であったりする場合は電源側(変圧器1次側)から見て系統が進み力率になる.また夜間の軽負荷時にも進み力率の負荷となる.このようなときにTCRを負荷と平行に接続することで,電源側からみた負荷の力率を改善するのである.このTCRはサイリスタのスイッチングを制御することで動的にリアクタンスを調整できるので,負荷変動に対する電圧変動を抑え,系統の安定性にも寄与する.

 

一般的な静止形無効電力調整装置(SVC)の構成

 

 SVCというのは,サイリスタなどの半導体スイッチを用いた無効電力調整機器の総称なので,上記で説明してきたTSCやTCRなどもSVCの一種である.ここではSVCの典型的なシステム構成例について簡単に見ておこう.図3を見て頂きたい.

 

図3.一般的な静止形無効電力調整装置(SVC)の構成

 

 

 この図3は一般的なSVCの構成例である.TSCとTCRを並列にすることで,進み力率から遅れ力率まで両方補償することができる.またTCRは連続的かつ迅速なリアクタンス調整ができるため,このシステム全体の無効電力調整も連続的かつ迅速に行われる.この例ではTCRとTSCの並列回路が変圧器を介して系統に接続されている.

 

STATCOM(Static Synchronous Compensator)について

 

 上記の図3の構成からさらに進んで,図4のようにインバータを用いた無効電力調整も考えることができる.

 

図4.STATCOM(Static Synchronous Compensator)

 

 

 この図4はSTATCOM(Static Synchronous Compensator)と呼ばれるタイプである.インバータにより交流を作り,リアクトルを介して系統につなげるのである.インバータが作る交流は系統の交流周波数・位相と一致しているので,”Synchoronous(同期の)”という名前になっている.またインバータは有効電力を系統に加えないので,このインバータ自身直流から電力をもらう必要がほとんどない.そしてこのインバータはIGBTなどを用いた高速スイッチングによるPWM制御が採用され,非常に高速な制御が可能であり,また高調波の発生もサイリスタタイプに比べて低減できる.

 この,交流電源をリアクトルを介して系統につなげるというのは,等価回路的には同期調相機そのものとなる.この辺りの議論は後続の記事で詳しく説明しよう.

 

サイリスタ制御直列コンデンサ(TCSC)

 

 サイリスタ制御直列コンデンサ(Thyristor Controlled Series Capacitor)とは,サイリスタのスイッチタイミングを制御することにより,直列コンデンサの等価的な容量値を可変にすることで無効電力調整を行う装置のことである.直列コンデンサ自体は長距離送電による莫大なリアクトルを相殺し,等価的に送電距離を短く見せるための補償装置である.

 

図5.サイリスタ制御直列コンデンサ(TCSC)

 

 

 このように長距離送電の間(電源側から見て手前でもよい)に直列コンデンサを挿入することにより,送電線のリアクタンスを打消し,電力系統の安定性を向上させる.ただし,リアクタンスを等価的に小さくするということは,短絡電流を増加させてしまうので系統保護の観点から採用には十分な解析・検討が必要である.TCSCは,この直列コンデンサの容量をサイリスタのスイッチングにより動的にコントロールすることにより,負荷変動に応じた迅速な無効電力制御を行うことができる.

 

図6.TCSCの仕組み

 

 

 この図6は,具体的にどうやって可変容量を実現しているのか,その仕組みを簡単に表したものである.図1や図2に示したTSCやTCRの議論では,リアクタンスは連続的な調整が可能であったが,キャパシタンスは段階的な切り替えしかできなかった.よってここでもキャパシタンスは固定値とし,それに並列に接続するインダクタの値を連続的に調節することで,その全体として等価的な可変キャパシタを実現している.

 半導体素子を用いた無効電力補償の概要説明はここまでとする.これからは,このそれぞれの回路が,実際の系統にどのように連結され,どのようなスイッチングによりどうやって無効電力を供給/消費しているのか,またどのような問題が考えられるのか等,技術の詳細について説明していくことにしよう.

 

 

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