送電線の電磁気学的観察

 

 これから送電線の等価回路について考えていこう.「等価回路?送電線は電流を運ぶ単なる線だから,回路図上でも線1本でいいはず!」と信じたい人も多いとは思うが,残念ながらそうはいかない.送電線が持つインダクタやキャパシタンス,抵抗,サージインピーダンスなどが電力系統の振る舞いに本質的な影響を与えているのである.つまり,送電網の系統安定性・短絡電流・無効電力調整・電圧調整・損失・サージインピーダンス・開閉サージ・雷サージ・電磁誘導障害などなど,あらゆる物理的状況の解析には,送電線の電気的振る舞いを正確に理解しておく必要があるのだ.

 この記事の後半で触れるが,送電線の電気的振る舞いは大まかに言ってインダクタとキャパシタの組み合わせで表現できる(図3).なぜインダクタンスとキャパシタンスで表現できるのか,その理由やそれらの値は,送電線を電磁気学的に解析することによって理解される.

 まずは本記事では送電線の電磁気学的な計算をする前に,その物理的イメージを簡単におさらいしておくこととしよう.送電線は大きく分けてケーブル架空送電線かに分類できるので,この順に電磁気学的な状況がどのようになっているのか解説してみる.

 

ケーブルの電磁気学的観察

 

 ケーブルが発生させる電磁界は下記の図1のようになっている.

 

図1.ケーブルにおける電磁界

 

 

 ケーブルの中心に電力を運ぶ導体(図中の導体A)があり,これを取り囲むようにケーブルの外側には遮蔽用の導体層(図中の導体B)が巻き付いている.2つの導体間には絶縁体が満たされている.

 図2の右図の点線は磁界であり,この磁界の存在により導体Aに流れる電流はインダクタンスを感じる.また同図の実線は電界であり,この電界の存在により導体Aに流れる電流はキャパシタンスを感じる.これらの計算は後の記事で説明する.

 

架空送電線の電磁気学的観察

 

 架空送電線が発生させる電磁界は下記の図2のようになっている.

 

図2.架空送電線における電磁界

 

 

 磁界は導線と地面の間を通りながら導線を周回しており,電界は地面と導線を結ぶように走っている.この電磁場の計算により架空送電線のインダクタンスとキャパシタンスを見積もることができる.

 ケーブルのときとは違い架空送電線では,導線の周りが広く空いているため同じ電流で発生する磁束が多くなり,結果的に大きなインダクタンスを持つ.一方ケーブルの場合は,中心の導線部分が接地導体と近接しているため,架空送電線と比べて大きなキャパシタンスを持つ.

 

ケーブル・架空送電線の等価回路

 

 上記の議論の通り,ケーブルか架空送電線かによって,インダクタンスやキャパシタンスの値に差は生じる.しかしいずれのケースにおいても次の図3に示すような等価回路となる.

 

図3.送電線の等価回路(左:分布定数,右:集中定数)

 

 

 単位長さ当たりのインダクタンスとキャパシタンスは電磁気学の法則に従って計算できるので,送電線は図3のようなモデル化ができる.ここで,図3左側に示した分布定数モデルが図3右側の簡易モデルよりも常に正確な記述であることは間違いないが,実際は計算が大変なので図3右側の簡略モデルを用いることがよくある.それではどこまで分割すればよいのだろうか?それは解析したい物理現象の時定数(あるいは周波数)や電線の長さにより変わってくる.一般的には商用周波数の諸現象(系統安定性,持続短絡電流など)は低い周波数なので,よほど長い電線でないかぎり図3右側の簡略回路で対処できる場合がほとんどだが,一方開閉サージや雷サージなどの短時間現象(高周波の現象)の場合は適切な長さで区切った図3左側の分布定数モデルを用いなければ正しい答えにならないことがほとんどである.この辺りの定量的かつ直感的な議論は後続の記事や書籍などで説明する予定である.

 いずれにせよ,送電線というのは,インダクタとキャパシタの組み合わせで大まかな電気的振る舞いは表現できるのである.

 ここからは,いままで無視してきた送電線の損失について簡単に触れておきたい.次の図4に示すのは,架空送電線の代表的な損失要因2つである.

 

図4.架空送電線の代表的な損失要因(左:抵抗損失,右:コロナ損失)

 

 

 図4左側は,導線に交流電流を流すときその電流が表面付近に集中するという,”表皮効果”を絵にしたものである.表皮効果は交流電流の周波数が上がるほど顕著になるが,商用周波数(50/60Hz)程度であっても特別高圧電線の場合は無視できず,導線中央に電流が余り流れず断面積全体が有効活用されないため,直流を流すときに比べ抵抗損失が大きくなってしまう.

 また図4右側はコロナ放電によるコロナ損失を表している.コロナ放電とは架空送電線に高電圧の交流を掛けると,電線の表面付近の電界が高くなりすぎて気中放電が生じる現象のことで,そのコロナ放電による損失をコロナ損失と呼んでいる.扱う電圧が高いほど,また導線が細いほど,そして雨の日ほど発生しやすい.

 このような各種損失の理解においても,送電線の電磁気学的な解析が大変重要になる.送電線というのは単なる導線でありながら,その周りに作る電磁界によっていろいろな電気的振る舞いを見せるので,ここからの送電線の解説においても,常に電磁気学のおさらいをしながら話を進めていくことになるだろう.

 

 

 

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