直流電動機の速度制御方式

 

 直流電動機の速度を制御するには,どうしたらいいか?一番単純なアプローチとしては直流機へ供給する直流電圧を制御してやる方式がまずは考えられるだろう.抵抗制御方式・ワードレオナード方式・イルグナ方式・静止レオナード方式などはすべて直流電動機に与える電源電圧を調整する機構である.抵抗制御方式は単純に直流電源と直流電動機との間に挿入された可変抵抗の抵抗値を調整するものなので説明は割愛し,ワードレオナード方式から順に以下に説明していきたい.

 

ワードレオナード方式

 

 図1にワードレオナード方式の構造を示す.

図1.ワードレオナード方式

 

 図1で示したワードレオナード方式の構造がかなり冗長で驚かれるかもしれないが,交流電動機で直流発電機を駆動し,直流電源を作っているのである.それでも半導体技術で安定した直流電源を供給できる前の時代では,安定した可変直流電圧の電源方式の1つとして精密な速度制御が必要な製造ライン等において重宝した方式である.直流発電機を他励式として界磁制御することで,一定の回転速度でありながら直流電圧を調整可能にしている.

 このワードレオナード方式は,短時間であっても急激な重負荷がかかるような用途では交流電動機と他励式直流発電機の回転速度が低下してしまい,供給する直流電圧が大きく低下してしまうという問題があるので,そのような用途では電圧低下を軽減するために次の図2に示すイルグナ方式という方式が導入される.

 

イルグナ方式

 

 イルグナ方式の構造を次の図2に示す.

図2.イルグナ方式

 

 図1のワードレオナード方式との違いは,交流電動機(つまりは他励式直流発電機)の軸にフライホイールを装着している点である.これにより急激な重負荷がかかってもそれが短時間であれば速度変動を小さく抑えることができるのである.

 次にワードレオナード方式とイルグナ方式による直流電圧源がどのような等価回路で表されるのか,次の図3で示そう.

図3.ワードレオナード方式とイルグナ方式の比較

 

 ワードレオナード方式の場合は,内部抵抗のある電池のような等価回路で表現できる.もちろん過酷な過渡的状況はこの簡易的な等価回路では全く表現できず,あくまで定格出力の範囲内でゆっくりした負荷変動について成立する等価回路である.一方でイルグナ方式の等価回路は,ワードレオナードの等価回路に容量を並列に追加したような形になる.確かに急激な負荷変動をフライホイールに蓄えられた運動エネルギーから出し入れして平滑化するという効果は,電気的には容量追加に相当しそうなイメージは湧くだろう.実際に運動方程式を解いてやればこのような等価変換が成り立つことが物理的にも説明できる(ここでは割愛).

 半導体技術の発達により,上記のような大掛かりな構造をとらずとも,安定した直流電源を交流電源から生成することが可能となった.このようにワードレオナード方式を半導体技術によって達成した方式を静止レオナード方式と呼ぶ.

 

静止レオナード方式

 

 次の図4に静止レオナード方式の構造を示す.

図4.静止レオナード方式

 

 半導体技術を使って交流を直流に変換するコンバータ,直流を交流に変換するインバータを構成できる.またこの両者は構造が基本的には同じ(電力潮流の方向が変わるだけ)なので,直流電動機を駆動するときにはコンバータ動作(図4の左側),直流電動機を回生動作(発電機動作)させるときにはインバータ動作(図4の右側)させることができる.また位相制御によりコンバータからの直流電圧を自由に調整できるので,きめ細やかな速度制御が達成できる.インバータやコンバータの動作原理は他の記事で紹介の予定である.

 今までは交流電源からの電力供給を前提に話を進めて来た.これからは,ある一定の直流電圧を持つ直流電源から可変直流電圧を生成して直流電動機の速度制御を行う方式を紹介しよう.

 

直流チョッパ方式

 

 直流チョッパというのはDC/DCコンバータとも呼ばれ,ある一定電圧の直流電源から異なる電圧を作り出す半導体回路のことである.そして一般には出力される直流電圧は可変である.この可変直流電圧源を利用して,直流電動機の速度調整を行う方式を直流チョッパ方式と呼んでいるのである.以下の図5をご覧いただきたい.

図5.電機子チョッパ方式(左)と界磁チョッパ方式(右)

 

 この図5において,2タイプの直流チョッパ方式の構造を示した.一つは電機子チョッパ方式(左),もう一つは界磁チョッパ方式(右)である.電機子チョッパ方式は読んで字の如く,電機子コイルに与える電圧をチョッパ制御している方式で,事実上電動機全体の電源電圧を調整している形になっているので,チョッパ回路が担う電流は大きい.一方で界磁チョッパ方式は,電機子電流はチョッパ制御せずに界磁電流のみをチョッパ回路から供給している形なので,チョッパ回路が担う電流は比較的小さなものとなるので半導体部分の小型化が図れる.ただし,界磁電流は無闇に大きくしたり小さくしたりできないので,速度調整できる範囲は電機子チョッパ方式に比べると狭くなる.

 そこで界磁チョッパ方式の鉄道の場合,下記の図6の右側のように抵抗制御方式との併用という形で実用化されている.

図6.抵抗制御方式(左)と実際の界磁チョッパ方式(右)

 

 界磁電流制御だけで速度調整できる時間が長いような用途でないと抵抗制御方式を主に用いることになってしまい電力を浪費してしまう.界磁チョッパ方式の鉄道で言えば,低速領域の速度制御は事実上抵抗制御で行われるので,停車と発車を頻繁に繰り返すような路線には界磁チョッパ方式は好ましくないと言える.

 

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,【徹底解説 電動機・発電機の理論】のP.118~121にて展開されています.
是非ご参照を!!

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