同期機のベクトル図の基本的性質

 

 前回の“同期機のベクトル図導入”において,以下の図1のようなベクトル図が物理的考察から導かれた.

図1.ベクトル図の一例

 

 ただし,\(\delta\)は負荷角である.

 これは,下記の同期機の基本式をベクトル表示したものであった.(前回の記事の式(6))

$$\dot{V}=jX_s\dot{I}+\dot{E} \tag{1}$$

ここで,\(\dot{V}\)は端子電圧,\(\dot{E}\)は起電力,\(\dot{I}\)は電機子電流,\(X_s\)は同期リアクタンスである.

 今回は,このベクトル図の基本的な性質と,簡単な使い方,同期機の電磁気学的状況との関係などについて説明していきたい. まず下記の図2において,ベクトル図の回転不変性について触れておこう.

図2.ベクトル図の回転不変性

 

 この図2は,ベクトル図は回転しても同期機の状況は全く変わらないということを示している.逆に同じ同期機の状況をベクトル図で表現するときには,自由に位相の原点を選ぶことができるのである.例えば同図の右側のように端子電圧を実軸に合わせてもいいし,勿論起電力を実軸に重ねてもいい.使い手の都合に合わせたアングルで描写すればよいのである.

 次に,このベクトル図上で,電機子電流\(\dot{I}\)がどのように表されるのか考えてみよう.式(1)から電機子電流\(\dot{I}\)について求めると,

$$\dot{I}=\frac{\dot{V}-\dot{E}}{jX_s} \tag{2}$$

となる.これをベクトル図に記入してみると,次の図3のようになる.

図3.ベクトル図における電機子電流

 

 点線の部分は\(\dot{V}-\dot{E}\)である.これを\(jX_s\)で割るので,電機子電流\(\dot{I}\)は点線と直交した向きになる.端子電圧\(\dot{V}\)と電機子電流\(\dot{I}\)の位相差\(\phi\)はこの同期電動機の力率である.このベクトル図と実際の同期機の関係を次の図4を用いて今一度おさらいしておこう.

図4.回転する電気量とベクトル図

 

 ベクトル図で表されたすべての電気量は回転子と一緒に回転している.つまり,同期機の外から観測すると,同期速度(交流周波数と固定子の極数で決まる回転速度)でベクトル図がグルグル回っているのである.また合成磁束と回転子とがなす角\(\delta\)(負荷角)は,ベクトル図上の端子電圧\(\dot{V}\)と起電力\(\dot{E}\)とがなす角と同じとなる.理由は前回の記事の図3を見ればわかるだろう.

 そもそもベクトル図というのは,回転子上の観測者からみた電気量をベクトル表示したものであったので,回転子上で観測した同期機の電磁的様子と対比させた例を2つ挙げておこう.

図5.ベクトル図の1例(負荷\(0\)のとき)

 

 この図5は負荷角が\(0\)の場合,つまり機械的負荷がない場合の同期機の様子である.負荷角\(0\)なので合成磁束と回転子の向きは一致している.ベクトル図上では端子電圧\(\dot{V}\)と起電力\(\dot{E}\)が同じ向きを向いており,\(\dot{V}-\dot{E}\)と直交する電機子電流 \(\dot{I}\)は端子電圧\(\dot{V}\)や起電力\(\dot{E}\)とも直交することとなる.これは力率が\(0\)となり,無効電力のみ供給(消費)するものとなっているので,これは同期調相機そのものである.

 次に示す図6は,機械的負荷がある場合の同期電動機の様子とそのベクトル図である.

図6.ベクトル図の1例(機械的負荷がある場合)

 

 機械的負荷があると,合成磁束の位相が起電力に対して反時計回りに進む.それにつられて,電機子電流\(\dot{I}\)が水平に近くなっているのもわかるだろう.これは力率が改善していることを意味している.また,図5と比べて決定的に違うところとしては,有効電力を消費している点だろう.次の記事で説明するが,消費(発生)有効電力は端子電圧\(\dot{V}\)と起電力\(\dot{E}\)の2本のベクトルで作られる三角形の面積に比例しているので,今回のように2つのベクトルが開いている時は,機械的入出力(今回は出力)があると言えるのである.

 それでは次のページから,ベクトル図と機械的入出力(有効電力の発生/消費)や無効電力の発生/消費との関係を明らかにしていこう.

 

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,

【徹底解説 電動機・発電機の理論】の§4-2前半(P.144~)にて展開されています.是非ご参照を!!

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