誘電加熱とマイクロ波加熱

 

 誘電加熱は前の記事において解説したが,今回説明するマイクロ波加熱と共通点が多いのでここで改めて復習しておきたい.次の図1は誘電加熱の発熱イメージである.

図1.誘電加熱の発熱イメージ

 

 誘電加熱は誘電体に高周波の電場を印加することで高速で電気分極(+と-の逆向き変位)を起こし,これを熱エネルギーに変換していた.このように「誘電体の分極を高周波で行い,その損失で熱を得る」というカラクリは,マイクロ波加熱においても完全に共通である.次の図2はマイクロ波加熱のイメージを示している.

図2.マイクロ波加熱のイメージ

 

 誘電体にマイクロ波を照射し,マイクロ波の周波数と同じ速さで誘電体の分極方向を揺さぶり,分子運動を活発化させて熱エネルギーを得ている.ここで誘電体と呼んでいるものは,水でもアルコール類でも高分子構造のものでも,とにかく電気的極性を持つ分子の集合であれば何でもよい.与えられたマイクロ波の周波数で極性分子がくるくると回転するのだ.

 そもそもマイクロ波というのは何だったか.マイクロ波というのは300MHz~3THzの電磁波のことである.電磁波なので電場だけでなく磁場も絡み合って振動している.しかし温める対象である誘電体は電気双極子なので電場の変化に合わせて運動する.電子レンジなどのマイクロ波加熱においては2450MHzが用いられる(ISMバンドの一つ)ので,電子レンジにかけられた物体中の水分子などは毎秒24億5000万回回転することになる.

 もう少し,電子レンジの簡単な原理を示しておこう.

図3.電子レンジの原理

 

 マグネトロンから発生された2450MHzのマイクロ波は,金属製の側面などに反射しつつあらゆる角度からある程度均等に加熱対象にあたるように作られている.また,マイクロ波は加熱対象の表面から少し内部まで浸透する(水で1cm程度浸透する)ので,ある程度均一に熱が行きわたる.

 最後に商用のマイクロ波加熱がなぜ2450MHzなのか簡単に説明しておこう.次の図4をご覧いただきたい.

図4.水のタンデルタ\(\tan{\delta}\)

 

 電子レンジは主に食物を温める.そして食物ならばよほど乾燥したものでない限り水分を多く含んでいるので,水のマイクロ波吸収度が大切だとわかるだろう.実際水の\(\tan{\delta}\)を見てみると,決して2450MHzが水の加熱にとって最適な周波数帯ではないことがわかる.むしろその1ケタほど高周波の帯域において水の\(\tan{\delta}\)が最大となっており,熱に変換されやすいことが伺える.ではなぜ2450MHzなのか?それは通信機器の電波と被らないように,国際団体ITUが「2450MHz付近は通信以外の産業・技術向け電波をかなりの強さまで許すことにしよう」と決めたからである. このように取り決めた周波数帯は2450MHz以外にもいくつもあり,ISMバンド(Industry-Science-Medical Band)と呼ばれている.電子レンジのような高周波エネルギー源の周波数帯も当然このISMバンド内に限定される.

 2450MHz以外にも915MHz帯(これもISMバンドの1つ)の電子レンジも海外にはあるそうだ.ISMバンドで2450MHzよりも高い帯域はいくつもあるが,高くし過ぎると発生が大変になるし,マイクロ波の侵入深さも浅くなってしまい,表面しか温まらなくなってしまう.また,10GHz以上では水の\(\tan{\delta}\)は高いものの,この\(\tan{\delta}\)の高さは全体の加熱効率にはそこまで致命的には利いてこないので,2450MHzでも問題ないのである.

 

マイクロ波加熱についての解説は以上である.

 

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