同期発電機の有効電力・無効電力

 

 ここでは同期発電機の有効電力や無効電力の発生(消費)量がベクトル図上でどのように表されるのかを見てみることにしよう.下の図1は同期発電機のベクトル図の一例である.

図1.ベクトル図の1例(発電機動作時)

 

 同期電動機のベクトル図とは,電機子電流\(\dot{I}\)の符号の向きが違うだけで,それ以外は同じである.ベクトル図は発電機でも電動機でも全く同じように使える手法であるが,電流がどちら向きでプラスになっているのか,その符号の定義だけは注意しよう.前回の記事の後半では,同期電動機の機械的出力がベクトル図の三角形の面積に比例することがわかったが,まったく同じ議論が同期発電機に.ついても展開できるので,発電される有効電力が一定の場合の起電力の軌跡は,下記の図2のようになりそうだと予想できるだろう.

図2.機械的入力一定(有効出力電力一定)の軌跡

 

 同期発電機の機械的入力(つまり有効電力出力)を一定として,発電機の励磁を非常にゆっくり変化させたとき(つまり起電力をゆっくり変化させたとき),ベクトル図がどのような変形をするのか表したものが,上記の図2であると言える.

 これから同期発電機(勿論電動機でも成り立つ)について,有効電力と無効電力の発生/消費に関する定量的な情報が,ベクトル図のどこを見ればわかるのか,解析してみることにしよう.

 皮相電力を\(\dot{S}\),有効電力を\(P\),無効電力を\(Q\)とすると,定義より以下の関係が成り立つ:

$$\dot{S}\equiv P+jQ=\dot{I}^\ast\dot{V} \tag{1}$$
 ただし\(\dot{I}^\ast\)は電機子電流\(\dot{I}\)の複素共役,\(\dot{V}\)は端子電圧である.ここで,\(P\)と\(Q\)は共に実数なので,この式(1)の実部と虚部に分けて
$$P=Re(\dot{I}^\ast\dot{V}) \tag{2}$$ $$Q=Im(\dot{I}^\ast\dot{V}) \tag{3}$$

 という表現が成り立つ.ベクトル図の位相の基準を端子電圧\(\dot{V}\)に取ると,端子電圧\(\dot{V}\)は実数となる.すると上記の式(2)と式(3)は以下のように書き換えられるだろう.

$$P=V\cdot Re(\dot{I}^\ast)=V\cdot Re(\dot{I}) \tag{4}$$ $$Q=V\cdot Im(\dot{I}^\ast)=-V\cdot Im(\dot{I}) \tag{5}$$

ここで端子電圧の大きさ\(V\)が一定(この発電機がつながれた交流電源の電圧が一定)だという自然な仮定をすると,有効電力\(P\)が一定ならば\(Re(\dot{I})\)が一定,無効電力\(Q\)が一定ならば\(Im(\dot{I})\)が一定,ということができる.すると,ベクトル図上での有効電力\(P\)一定の軌跡と無効電力\(Q\)一定の軌跡は,それぞれ下記の図3のように描くことができる.

図3.ベクトル図における有効電力\(P\)一定と無効電力\(Q\)一定

 

 左側は有効電力\(P\)一定の軌跡なので,\(Re(\dot{I})\)が一定,つまり電機子電流\(\dot{I}\)の軌跡は縦線である.そこから\(jX_s\)を掛けた\(jX_s\dot{I}\)は\(\dot{I}\)を\(90^\circ\)回転したものになるので,\(jX_s\dot{I}\)の軌跡は横線となる.

 一方右側は無効電力\(Q\)一定の軌跡なので,\(Im(\dot{I})\)が一定,つまり電機子電流\(\dot{I}\)の軌跡は横線である.よって\(jX_s\dot{I}\)の軌跡はそこから\(90^\circ\)回転させた縦線となる.この2つの結果を合わせると,以下の図4のような有効電力\(P\)と無効電力\(Q\)の等値線が描けることが理解できるだろう.

図4.ベクトル図における\(P\)と\(Q\)の等値線

 

 図4が示すところとしては,ベクトル図上で起電力\(\dot{E}\)の位置を見れば同期発電機が発生する(消費する)有効電力\(P\)や無効電力\(Q\)の多寡が把握できるというところだろう.つまり,起電力\(\dot{E}\)が上に行けばより大きな有効電力\(P\)を発生しており,右に行けばより大きな無効電力\(Q\)を供給しているのである.そして有効電力\(P\)も無効電力\(Q\)も\(0\)になる起電力\(\dot{E}\)のポイントは,丁度端子電圧\(V\)と等しくなるときである.

 これらの考察をまとめたものが下の図5である.

図5.ベクトル図における起電力\(\dot{E}\)に対する4つの領域

 

 起電力\(\dot{E}\)が端子電圧の軸よりも上ならば発電機領域,下ならば電動機領域となり,また端子電圧よりも右側にいれば無効電力を供給(遅れ無効電力をプラスとしている),逆に左側ならば無効電力を消費となるので,このように端子電圧を中心として全部で4つの領域に分けることができる.起電力\(\dot{E}\)がこの4つの領域のどこにいるかを見れば,有効電力と無効電力の流れの方向を把握することができるのである.

 このイメージを持って最後に数式の上でも上記の結果が導かれることを確かめてみよう.

 式(4)と式(5)から,

$$Re(\dot{I})=\frac{P}{V} \tag{6}$$ $$Im(\dot{I})=-\frac{Q}{V} \tag{7}$$

 と計算できるので,

$$\dot{I}=\frac{P}{V}-j\frac{Q}{V} \tag{8}$$
これを同期発電機におけるベクトル図の基本式,(電動機のときの式と比べ\(\dot{I}\)の符号が逆)
$$\dot{E}=V+jX_s\dot{I} \tag{9}$$
 に代入すれば,
$$\dot{E}=V+\frac{X_s}{V}Q+j\frac{X_s}{V}P \tag{10}$$

 となる.これは,起電力\(\dot{E}\)が端子電圧\(V\)を中心とし,そこから\(P\)の分だけ虚軸方向に,また\(Q\)の分だけ実軸方向に,それぞれずれた位置になることを示している.これは図5のイメージそのものである.

 

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,

【徹底解説 電動機・発電機の理論】のP.167~P.172にて展開されています.是非ご参照を!!

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