光源の物理1 続(白熱電球)

 

 前回の記事において,高温の物体からはたくさんの電磁波(光)が放射されることが物理的に説明された.この物理原理を用いた光源が白熱電球である.

 この項では前回までの物理的な考察を踏まえて,白熱電球がどのような構造や特性を持っているのか説明していこう.

 まず,白熱電球の外見から考察していく.下記に示すのは,2つの代表的な白熱電球の形状を表している.

図1.通常の白熱電球(左)とハロゲン球(右)

 

 左に示すのは通常よく見る白熱電球であり,一方右側は車のヘッドライトや展示場の照明などによく用いられるハロゲン球である.全光束が同じならばハロゲン球の方が圧倒的に小さい.それはハロゲン化タングステンがガラスに定着していかぬように,ハロゲン球のバルブ内面の温度を高く保つ必要があるためである.この後に示すように,ハロゲン球の方が発光効率は高い.これから,この2つのタイプに分けて,その構造や特性などについて解説していこう.

 

通常の白熱電球(アルゴン球,クリプトン球,キセノン球)

 

 まずは昔ながらの形の白熱電球を説明する.下記の図2において各部位の名称と,構成物質を表す.

図2.白熱電球(アルゴン球,クリプトン球,キセノン球)の構造

 

 この図2の中で,これから詳しく触れる部分はフィラメント不活性ガスである.フィラメントはタングステンの細線である.タングステンは融点が非常に高いので熱放射の発光体としてはちょうどいい.融点が約3400℃に対しフィラメント発光時の温度は2500℃~2650℃程度である.また不活性ガスは,タングステンが蒸発しにくいように充填する希ガス窒素などのガスを言う.そして充填する希ガスの種類により,アルゴン球・クリプトン球・キセノン球などと呼び分ける.アルゴンを封入する場合は数%~十数%程度窒素が混入される.アルゴンよりクリプトン,クリプトンよりキセノンの方が原子量が大きく,原子量が大きい方が熱伝導率が小さく発光効率が良くなる.つまり発光効率はアルゴン球<クリプトン球<キセノン球となる.また,原子量が大きい方がタングステンが蒸発しにくい性質があるので,寿命もアルゴン球<クリプトン球<キセノン球の順となる.しかし,希ガスは原子量が上がるほど希少性が高くなるのでクリプトン球やキセノン球の値段は高い.

 

ハロゲン球

 

 ここからはハロゲン球の説明をしていこう.次の図3を見れば明らかなように,昔ながらの白熱電球とは形が大きく異なる.また大きさも通常の白熱球よりも格段に小さい.

図3.白熱電球(ハロゲン球)の構造

 

 まず,ハロゲン球にはアルゴンなどの不活性ガスに加えて微量のハロゲンガス(ヨウ素か臭素)が封入されている.これは蒸発したタングステンが再びフィラメント表面に戻ってくるというハロゲンサイクルを利用して寿命を格段に向上させるためである.簡単に言うと,ハロゲンなしではフィラメントから出たタングステン蒸気はバルブ表面で昇華・定着し,バルブが黒ずんでいく一方フィラメントは細くなっていき寿命に至るが,ハロゲンがあることでフィラメントから出たタングステン蒸気がバルブ内面に至るまでにハロゲン化タングステンとなり,これが蒸発しやすいためバルブへの定着が大幅に防げるというのである.ただ,バルブが冷えていると不味いので,バルブを意図的にフィラメントに接近させることで高温に保ち,ハロゲン化タングステンがバルブに付きにくくしている.

 このハロゲンサイクルにより,フィラメントを通常の電球よりも200℃程度高温にしても同様の寿命を達成できるようになった.次において示すが,フィラメントが高温であるほうが発光効率は高まる.また色温度も高くなるので発色も自然光に近くなる.このためこのハロゲン球はスタジオや展示場,ショップなどの照明で活躍している.

 次に示すのは,光源の温度に対するスペクトル強度分布の変化である.これは,前回の記事の式(11) をプロットしたものである.

図4.放射体の温度とスペクトル強度分布

 

 この図4は,光源の温度がそれぞれ2800K,3000K,3300Kの場合のスペクトル分布を表しており,2800Kは一般的な白熱電球,3000Kは一般的なハロゲン球,3300Kは寿命を犠牲に色温度を高めたハロゲン球,におおむね一致する.いずれのケースも380nm~740nmの可視光の放射は少なく,それよりも長波長の赤外領域が放射エネルギーの大部分を占めていることが読み取れるだろう.

 それではこの3つの温度において,赤外・可視光・紫外領域の放射エネルギー比率をプロットした以下の図5をご覧いただこう.

図5.放射体の温度と放射エネルギー内訳

 

 一般的な白熱電球では全放射エネルギーのわずか8%しか可視光線にならないことを示している.しかも放射エネルギーだけでなく,熱伝導による損失もある(100%のエネルギーが電磁放射になるわけではない)ので,白熱電球全体の可視光線への変換効率はさらに低い.これがハロゲン球レベルの3000Kになると,全放射エネルギー中の可視光線の割合は10.7%まで上昇する.そしてハロゲン球の限界に近い3300Kにおいては15%まで改善する.

 

以上で白熱電球の物理的考察を終わりにする.白熱電球の効率を高めたければとにかくフィラメントの温度を上げることが有効であり,そのためには封入ガスやバルブの形状などに工夫が必要であることがわかった.

 

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